トークコーナー

【☆オケ座談会】カヴァレリア・ルスティカーナからベートーヴェン・チクルスへ 第1回

槙山高志 代表
宮崎将一郎 団員指揮者
山本将貴(進行役) 幹事長


はじめに


山本 先日の演奏会(2018年1月)では,☆オケとしては約10年ぶりにオペラを取り上げました。そして,次回の演奏会(2018年6月)では,ベートーヴェンの交響曲第1番を取り上げ,二度目のベートーヴェン交響曲チクルスに取り組み始めます。ある意味,☆オケがまた新しいサイクルに入るスタート地点ともいえる時期だと思いますので,現代表の槙山さんと,団員指揮者でありベートーヴェン・チクルスで多くの交響曲を指揮することになる宮崎さんと私の3人でざっくばらんに☆オケの活動について語っていきたいと思います。


カヴァレリア・ルスティカーナについて


山本 では,代表の槙山さん,先日の定演のカヴァレリア・ルスティカーナを振り返ってみましょうか。槙山さんにとって,オペラははじめての経験だったと思います。いかがでしたか。

槙山 はじめにストーリー(一言でいえば,二組のカップル間の不倫から決闘に至るまでのお話)を読んだときに,こんな男女の喧嘩を大げさに描いただけの話が面白いわけがないだろうと思いました。とても中身のある曲には感じられないというのが正直なところでした。ところが練習を進める中で,曲を知り,背景を知っていくとこの曲を通して見える情景が違ってきました。

山本 具体的には・・?

槙山 この曲は「恋人に捨てられた女」であるサントゥッツァの単なる嫉妬やヒステリーの話ではないなと。舞台であるシチリアはもともと閉鎖的な村社会で,さらに保守的なカトリックの厳しい戒律もある。また,明確には書かれていませんが,実はサントゥッツアは恋人の子を身ごもっているという裏の設定もある。そうすると,サントゥッツァが村の掟やカトリックの戒律に背いたがゆえに教会やにぎやかな復活祭の輪に入っていけないことや,恋人とよりを戻そうとして必死になる理由が実感できるようになりました。

山本 ストーリーや登場人物がよりわかってくるということでしょうか?

槙山 はい。ストーリーや登場人物への理解がベースにできてくると,作曲家がなぜこういう音楽を作ったのかということがストンと腑に落ちるようになりした。そうすると,そこから今度はこの曲に乗っかって,自分がどういう音楽の方向性で演奏すべきなのかというのがかなり具体的に,はっきりとでてきます。もちろん,ここで技術的な問題にも直面するのですが,明確な音楽の方向性が見えているのですから,前向きな姿勢で乗り越えることができます。自分の中でこういうプロセスが起こったことは初めてで,このオペラの体験を通じてこういう変化が起こったこと自体が大きな発見でした。

宮崎 オペラには歌詞があり,ストーリーがある。全体でどういうことを言おうとしている曲なのか,というのが最初にありますね。その中で,各部分が全体の中でどういう位置づけにあるのかということを咀嚼した上で演奏していかないと,全体としては曲になっていかない。オペラの場合,そうした意識が,オーケストラだけで演奏する曲の場合よりも強固に求められますよね。

山本 とはいっても,オペラの音楽は一般的にはアマチュアオーケストラの人にはなじみがなく,触れる機会もあまりありませんよね。

宮崎 我々もそうなのですが,ほとんどのアマチュアオーケストラをやっている人間は,高校なり大学なりで何かしらのオーケストラ団体に入って,オーケストラの世界にはまってきたというバックグラウンドがあると思います。だから基本的にはオーケストラだけの曲が出発点だし,オペラについては初めから興味の対象外というところがある。そして,オペラではオケは伴奏だし,曲は長いしで,付き合うのにエネルギーがいります。しかし一度こうした体験をすると,自分たちの中に変化が出てくるのは面白いところです。

山本 私が象徴的なこととして感じているのは,ヨーロッパの伝統的なオーケストラは,オペラ劇場にベースがあって,その延長線上にオーケストラの演奏会がなされて発展してきた歴史があることです。ウィーンや,ドレスデンなどがその代表でしょうか。たぶん,彼らは根本的なところでオペラの世界とオーケストラの世界を分けて考えてはいないでしょうね。そして,彼らの頭の中では,オペラの世界とオーケストラの世界が結びつくことによる化学変化みたいなものが日々生じているんじゃないかなと。

宮崎 それに関連するかわかりませんが,ウィーン・フィルに面白い話があります。彼らの演奏を聴いていると,弦楽器が木管楽器のような音色を出してくるし,打楽器が弦楽器のような音を出してくる。なぜそういう音色がでるのですか?という質問がでたときに,ウィーン・フィルの団員から,「僕らはいつも歌と一緒にやっているからね」という回答が返ってきたそうです(※ウィーン・フィルの母体は,ウィーン国立歌劇場のオーケストラで,毎晩のようにオペラを演奏している)。

山本 その話は禅問答のようでもあり,字面以上の深い意味がありそうですね。
 ところで,今回の演奏会の手ごたえはどんな感じでしたか?お客様のアンケートを読む限り,いつもの演奏会よりもさらに好評だったようですが・・。

槙山 演奏している我々オーケストラの手ごたえもかなりあったと感じます。私はこのオーケストラに入団してから,歌と共演する曲としては,メンデルスゾーンの交響曲第2番「讃歌」,ベートーヴェンの第9と演奏してきました。今回のカヴァレリア・ルスティカーナは,この2曲以上に面白いぞという感触もありました。

山本 それはなかなか興味深い感想です。第9といえば,オーケストラを経験した人なら,必ず一度はやってみたいと思う曲ですし,最高レベルに人気の高い曲の一つです。

槙山 第9にはシラーの詩がついていましたが,その詩の内容は誤解を恐れずに端的にいいますと「人類皆兄弟」というもので,少々高邁な思想という面があります。もちろん,共感できないという意味ではありませんが,少なくとも我々がいつもこうしたことを感じ,考えているかというとそうではない。これに対して,オペラに登場するのは,悲しみ,怒りといった生の感情で,より我々の普段の感情に近い面があります。誰しも恋人や奥さんに裏切られて,決闘したりするわけではないのですが,演奏する側としては日常の感覚の延長として登場人物の感情を想像しやすいというところがありますね。
 次回オペラに取り組むのがいつになるかはわかりませんが,今回のような面白みがまた体験できる企画にしていきたいですね。

【第2回「ベートーヴェンチクルスについて」につづく】

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