トークコーナー

【☆オケ座談会】オペラ「ジャンニ・スキッキ」特別企画 第1回

はじめに


 ☆オケでは、演奏会でとりあげる曲を団員がより深く理解できるように曲の紹介をしたり、分析的なアプローチをしたりする練習企画係という係があります。
 某日、練習企画係で座談会を開きましたので、その内容をご紹介していきたいと思います。


第1回 『ロミオとジュリエット』と『ジャンニ・スキッキ』


係員A(以下A) さて、今回のプログラムは『ロミオとジュリエット』(以下『ロミジュリ』と略すことがあります)と『ジャンニ・スキッキ』(以下『ジャンニ』と略すことがあります)で、どちらもストーリーのある曲の組み合わせになっているけど、『ロミジュリ』が悲劇で、『ジャンニ』は喜劇なので、内容的にも音楽的にも対照的な組み合わせになっているよね!
係員B(以下B) そうはいっても、二つのお話で共通する点もありますよね~。
A 例えばどんなところ?
B 簡単なところでは、『ロミジュリ』は14世紀頃のイタリアのヴェローナを舞台とした話、『ジャンニ』は13世紀頃の同じくイタリアのフィレンツェを舞台にした話ということで、舞台背景がかなり似ています。そして何よりも重要なのは、若い恋人の存在と、その二人の仲を「家」が阻もうとしているところかな。
 まず『ロミジュリ』では、モンタギュー家のロミオ、キャピュレット家のジュリエットという構造になっていて、キャピュレット家とモンタギュー家は昔から犬猿の仲です。他方『ジャンニ』では、ドナーティ家のリヌッチョはスキッキ家のラウレッタと恋仲で結婚したがっているけど、ドナーティ家はそれを認めようとしない、スキッキ家のことを田舎者と見下したような態度をとっています。
A 確かにその通りだね!さすがBさん。二つの物語の基本構造が「恋人と家柄」というような感じで、似ているところがあるよね。
係員C(以下C) いまの時代の感覚からすると、恋人同士が結婚するというのはごく当たり前の感覚で、むしろ恋人でないのに結婚するといったら白い目で見られかねない。ところが昔は結婚というと、財産のある家同士が結婚することで家の財産を守るという側面が強かった。結婚した後、それぞれが結婚相手とは別に恋人を持っていることが普通に描かれていることがよくあるからね。

A ……その他に共通点や共通するテーマはないのかな?
B 僕が思うには、「知恵の功罪」というのもこの話で重要な要素であって、共通点になっていると思うな。
 『ロミジュリ』では、ロミオがジュリエットと密かに結婚してしまった後、親友のマキューシオが対立するキャピュレット家に殺されてしまう。それでロミオは逆上してキャピュレット家のティボルトを殺してしまい、ヴェローナを追放されることになってしまう。この状況を打開するために、修道僧ロレンスは仮死の毒を使ってジュリエットを死んだことにして、ロミオとジュリエットを時期がくるまで隠してしまう計画を思いつくわけです。
 これに対して『ジャンニ』では、大富豪ブォーゾ・ドナーティが遺産をすべて修道院に寄付してしまう遺言を残していたので、ドナーティの親戚たちは自分たちが遺産をまったく得られないという状況に追い込まれてしまう。そこで藁をもつかむ思いでジャンニ・スキッキに助けを求めたところ、ジャンニ・スキッキが遺言書の偽造という計略を思いついて、自らブォーゾ・ドナーティに扮して遺言を偽造する計画を練る。このように『ロミジュリ』ではロレンス修道僧、『ジャンニ』ではジャンニ・スキッキがそれぞれ計略を編み出しているよね。
 もっとも、対照的なのは結末で、『ロミジュリ』ではロレンス修道僧の「仮死の薬」の計略は大失敗して、ロミオとジュリエット二人とも死んでしまうという大悲劇になってしまう。他方『ジャンニ』では、ジャンニ・スキッキの計略は成功してブォーゾ・ドナーティの遺産は修道院には寄付されないし、リヌッチョとラウレッタという恋人も結ばれるということでハッピーな終わり方になる。ただドナーティ家の親戚たちは、最も価値の高い遺産(フィレンツェの家、ラバ、製粉所)をジャンニ・スキッキに略取されてしまうわけで、彼らの立場からすると悲劇なのかもしれませんが(笑)。
A そこが物語の妙とうか、面白いところだよね!現代の私たちの立場からしても遺産分割は親戚同士でもめる可能性のある一大イベントなので、なんか親近感がわくね(苦笑)。
C 『ジャンニ』のドナーティの親戚たちはどれも遠縁の人たちばかりで、辛うじて近縁なのが甥っ子のゲラルドだし、あとは血がつながってない人もちらほらいる(笑)。醜い遺産争いだから、そりゃ、ブォーゾ・ドナーティとしてはこんな奴らに遺産を相続させるよりかは修道院に寄付した方がまし、と思ったかもしれないよね。

A こうしてみると『ジャンニ』では相続も大きなテーマとして扱われていて、この点は『ロミジュリ』と異なるところだね。ところで、『ジャンニ』では若い恋人の恋愛はそれほど重要なテーマになっていないということなのかな?
B じゃあ、その点について少し補足しておこうか!もう一度『ロミジュリ』と『ジャンニ』の比較で考えてみると、この二つの作品は「禁じられた恋愛」が物語を動かすトリガー(引き金)になっている点では共通していると言えないかな。
 『ロミジュリ』では家同士が対立している関係上、ロミオとジュリエットが表立って交際することが憚れるから、ロレンス修道僧にお願いして秘密裏に結婚してしまうよね。ところが、この結婚の直後にマキューシオ、ティボルトが死んでしまうので、二人の結婚は実は悲劇のトリガーを弾いてしまっていることになるよね。他方『ジャンニ』では、ブォーゾ・ドナーティの遺産をあてにして、ラウレッタと結婚しようと目論んでいたリヌッチョが、遺産が修道院に行ってしまう危機的事態を打開しようとして、ジャンニ・スキッキに助けを求めているし、ラウレッタも有名なアリアの「私のお父さん」を歌って、自分とリヌッチョが結婚できるように,、何とかお父さん(ジャンニ・スキッキ)助けてください、お願い!と歌う。こうしてみると、どちらの作品でも「禁じられた恋」はテーマになっているし、間違いなくそれぞれの作品の魅力になっていると思うよ。
A ここまでいろいろな話がでてきたけど、こんなところで『ロミオとジュリエット』、『ジャンニ・スキッキ』の基本的な構造やテーマがつかめてきた気がするね!次からはもう少し物語を深く掘り下げていきましょう。

【第2回「表の顔と腹の中」につづく】

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