トークコーナー

【☆オケ座談会】オペラ「ジャンニ・スキッキ」特別企画 第3回

第3回 『ジャンニ・スキッキ』のライトモチーフ


係員A(以下A) では、今回はおなじみライトモチーフの観点から『ジャンニ・スキッキ』(以下、『ジャンニ』と略すことがあります)を分析していきましょうか。まず、ライトモチーフって何っていうことを再確認しましょう。
係員C(以下C) そこはwikipediaを引いてみますと「オペラや交響詩などの楽曲中において特定の人物や状況などと結びつけられ、繰り返し使われる短い主題や動機を指す」とありますね。
係員B(以下B) 要するに機能的な面に着目して、モチーフが何度も登場する過程で変化したり再現したりで、聴き手の意識・無意識に訴えるもの、と理解しておけばよいのではないかな。

A じゃあ、ライトモチーフの意義を再確認したところで具体的にみていきましょうか。まず、今まで☆オケで演奏したオペラは特定の人物にモチーフが割り当てられていたことが多かったから、すぐに「この人にはこのモチーフ」という感じで思いついたけど、このオペラはそういうわけではない気がするね。常に登場人物が沢山出ているし、人物にはこのモチーフ、、というわけではないのかなぁ。。。
B Aさん、いいところに気が付いたね。実は僕もそう感じていたところなんだ。何しろこのオペラは、つねに10人前後の人物が舞台上でアンサンブルをしているから、この人にこのモチーフという音楽の作り方はそもそも不可能というのがあるかもしれないよね。
A うーん、ではどんな観点から考えればいいでしょう。
B そこで、前回までにしてきた分析の結果を生かせないかな。このオペラのテーマには、「家の対立」、「恋愛」、「相続」なんかがあったよね。その観点からみていけないだろうか。

A では、まずわかりやすく、「家の対立」という観点ではどうでしょう。家というと、ドナーティ対スキッキという構図でしたよね。
C そういう目で見ると、まず冒頭から登場するあのシンコペーションのモチーフがあるけど、あれってどう考えればいいんだろう。あのモチーフは、曲全体を通じて頻繁に登場するから、ドナーティ家のモチーフといえるかもしれないね。
A ただ、そうすると、スキッキ家のモチーフらしきものが見つからない気がするんだけど・・・。
B では、有名な「私のお父さん」の初めのところはどうだろう?
C あれは、モチーフとかじゃなくてメロディーととらえた方が自然なような・・・、あ、そういえばリヌッチョがアリアを歌った後、ジャンニ・スキッキが初めて登場するシーンあたりで、同じメロディーがながれるような・・・!
B 実はそうなんだよね。スキッキ家のリヌッチョがアリアを歌い、ジャンニ・スキッキが登場するシーンでは何度かこのモチーフが登場するんだ。このモチーフはラウレッタが印象的に歌うだけに、ラウレッタだけに結び付けて考えがちだけど、ジャンニ・スキッキにも結び付けられている、、、そうするとこのモチーフはスキッキ家のモチーフとも考えられるわけだよね。

A いい感じで、このオペラのもっとも印象的なモチーフを整理できましたね!では次に、「恋愛」という観点ではどうでしょうか?
C これはラウレッタとリヌッチョがオペラの最後で歌う二重唱のモチーフじゃないかな?
B このモチーフは、オペラの他の部分ではどういう使われ方をしているだろう?このモチーフは、ジャンニ・スキッキの登場後、「ジャンニ・スキッキに知恵は求めたいけどリヌッチョとラウレッタが結婚することは認めたくない」ドナーティ家と、それに反発するジャンニ・スキッキ。このはざまで苦しむリヌッチョとラウレッタ、という感じのシーンで登場しますよね。そう考えると、このモチーフは「リヌッチョとラウレッタの愛のモチーフ」として整理できそうだね。

A では、最後の大きなテーマである「相続」の観点からはどうでしょう。
C まず初めに思いつくのは、オペラの前半でブォーゾ・ドナーティの遺言書を発見して読み上げるシーンや、後半で公証人が登場するシーンかな。そこでは、同じモチーフが登場するよね。
B そうそう。遺言というと厳かなイメージがあるし、このモチーフの印象とも重なるから、このモチーフは「遺言書のモチーフ」としていいんじゃないかな。
A その他にはどうでしょう?
C ドナーティ家の人たちが、遺産のあれが欲しい、これが欲しいと言っているシーンがあるけど、その裏ではいつも同じモチーフが何度も流れているのが気になってるんだけど・・・。
B うんうん。そのモチーフは、なんか混乱を想起させるよね。遺産分割は混乱をもたらすもの・・だから「遺産分割のモチーフ」ではどうかな。オペラの最後で、ドナーティ家の人間が家の中の物を持ち出す(盗む)シーンがあって、これもある意味遺産分割みたいなものなんだけど(笑)、このシーンでもこのモチーフは登場してるしね。
A 私の方は、ジャンニ・スキッキが遺言書偽造の計略をドナーティ家に説明するシーンや、ドナーティのそれぞれが、こっそりジャンニ・スキッキに自分が欲しい遺産を伝えるシーンのモチーフが気になってるよ。
B そこは、なんていうか、「こっそりいけないことをしてる感」が良く出てててると思うな(笑)。名づけるとしたら「計略のモチーフ」とかそんな感じかな?
A 他にはどうでしょうか?
C オペラの前半で、リヌッチョが遺言書を発見して、それをみたドナーティ家の人々が「遺産が修道院に取られてしまう」と大騒ぎするシーン。そこで登場する長調の元気なメロディーがあるんだけど、それもモチーフになるかな?
B いいところに気が付いたんじゃない?そのシーンの始まりに着目してみると「やっぱり遺産が修道院にいってしまう噂は本当だったのか!」という台詞から始まっていて、そこではそのメロディーが短調で登場しているんだよね。そうすると、このメロディーは形を変えて何度も登場しているから、モチーフとして考えてよさそうだよね。いうなれば「遺産への欲望」みたいな感じかな。このモチーフははじめに登場するときはファゴットで演奏されるんだけど、この楽器の特性か、ドロドロした欲望みたいな感じがよく表現されているように感じるよね。
C ここのシーンではもう一つ印象的なモチーフがあるように感じていているんだけど、、「遺産が修道院にいってしまう」「坊さんども、遺産を取りそこなったドナーティ家を笑うがいい」みたいな台詞で、付点のリズムのメロディーが登場するよね。
B そこは「修道院」モチーフ、または、「ドナーティ自嘲」モチーフともいえるんじゃないかな。これらの「遺産への欲望」「ドナーティ自嘲(修道院)」のモチーフはいずれもそのあとのシーンで顔を見せるから、プッチーニもモチーフとして意識して使っているといえそうだね。
あと相続に関してのモチーフはほんとにたくさんあって、オペラの冒頭で、まだドナーティ家の人間が「遺産がもらえるんじゃないか・・・」と希望をもっているころによく登場するモチーフがあるんだけど、これは「遺産相続への希望」モチーフといっていいと思う。このモチーフはオペラの中盤で、ジャンニ・スキッキが遺言書偽造の計略を思いついたシーンでちらっと姿をみせるんだよね。こういうところに気が付くと、プッチーニはほんとにいろいろな仕掛けを埋め込んでるんだと、ただただ驚いてしまいますね。

A うわー、こうして思いつくがままにモチーフの類をいろいろ挙げてきたけど、はじめはモチーフがわかりにくいと感じていたこのオペラに、ずいぶんモチーフが織り込まれていたことがわかるね!さすがプッチーニ!
B たぶん今話してきたものがすべてではないと思うし、僕ら音楽の素人が思いついたままをそのまま言っているだけだから、モチーフの解釈も絶対というわけではないよね。これを読んだ皆さんにも、「こんなのがあるんじゃない」「こういう解釈はどうだろう」というのがあったら是非教えてほしいよね!
A では、今回はこのくらいにしてまた次回ということにしましょうか。次回のテーマは、、、、「私の好きな・気になるこのシーン」ということで、各々が好きな・気になる音楽をざっくばらんに語っていきましょうかね!

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